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人工聴覚臓器による難聴治療

難聴の原因部位によって鼓膜形成術、鼓膜形成術、アブミ骨手術など対応する治療法がすでに確立しています。

しかし、これらの既存の手術では治せない難聴に対しては、最新のテクノロジーを利用した人工聴覚臓器があり、これらの進歩には目を見張るものがあります。

埋め込み型骨伝導補聴器、人工中耳、人工内耳、聴性脳幹インプラントが開発され、すでに臨床応用されています。

人工臓器について

人工内耳とは

これまで内耳が原因の高度感音難聴の医学的治療は不可能でした。人工内耳とは、内耳の中に電極を入れて、周囲の聴神経を直接に電気刺激して聴覚を取り戻すという人工臓器です。補聴器が使えない両側とも高度の難聴(90dB以上)の患者さんはこれまで手話や唇の動きを読み取る読話、あるいは筆談を余儀なくされていましたので、この最新テクノロジーを利用した治療法の出現は耳鼻科の歴史の中でも極めて画期的な出来事です。

1. 体外装置であるサウンドプロセッサが音を拾い、拾った音をデジタル信号に変換します。
2. デジタル信号に変換された音は、サウンドプロセッサにより、頭の外側に装着した送信コイルを通じてインプラントへ送られます。
3. インプラントはデジタル信号に変換された音を、電気信号に変換し、蝸牛(内耳)に挿入された電極に送ります。
4. インプラントの電極が蝸牛の聴神経を刺激し、この刺激が脳に送られて、音として認識されます。

人工内耳の特長

  • 電極は全て頭皮下に埋め込まれる→洗髪も可能
  • 体内電極は電池不要→故障しない限り取り替える必要なし
  • 再手術による電極交換も可能
  • 12〜24チャンネル(機種により異なる)
  • 体外装置は小型プロセッサを使用→耳掛け型補聴器と同様のレベルに小型化

人工内耳の適応疾患

【成 人】
  • 進行性感音難聴
  • 突発性難聴
  • 内耳炎(髄膜炎や中耳炎に併発)
  • メニエール氏病
  • 薬剤性難聴
【小 児】
  • 内耳奇形
  • ウィルス性内耳炎
  • コネキシン26変異
  • PDS変異
  • 先天性難聴
我が国の成人人工内耳適応基準は2017年に世界標準的な基準に変更されました。

1. 聴力および補聴器の装用効果
各種聴力検査の上、以下のいずれかに該当する場合。

  • i. 裸耳での聴力検査で平均聴力レベル(500Hz、1000Hz、2000Hz)が 90dB 以上の重度感音難聴。
  • ii. 平均聴力レベルが 70dB 以上、90dB 未満で、なおかつ適切な補聴器装用を行った上で、装用下の最高語音明瞭度が 50%以下の高度感音難聴。

2. 慎重な適応判断が必要なもの。

  • A)画像診断で蝸牛に人工内耳を挿入できる部位が確認できない場合。
  • B)中耳の活動性炎症がある場合。
  • C)後迷路性病変や中枢性聴覚障害を合併する場合。
  • D)認知症や精神障害の合併が疑われる場合。
  • E)言語習得前あるいは言語習得中の失聴例の場合。
  • F)その他重篤な合併症などがある場合。

3. その他考慮すべき事項。

  • A)両耳聴の実現のため人工内耳の両耳装用が有用な場合にはこれを否定しない。
  • B)上記以外の場合でも患者の背景を考慮し、適応を総合的に判断する事がある。

人工内耳の効果と成績

100dB以上の高度の難聴の方ですと、通常、補聴器を装用しても60〜70dB位の装用閾値しか得られません。これでは私たちの会話が含まれるスピーチバナナには入ってこない、だから会話が良く聞き取れないのです。

一方、人工内耳を装用した状態での聴力検査を行った場合、下の図のようにほぼ30〜40dBのフラットな閾値を得ることができ、特に補聴器では難しい高い音域の会話(サ行など)の日常音声会話が十分に聞き取れることになります。つまり、100dB以上の高度難聴が軽度難聴の状態に移行するわけです。

低年齢では成人で行う語音検査ができないので、聴性行動観察による音声・言語機能の評価でみている。これによれば2年間で補聴器が有効であった難聴児と並ぶ、あるいは追い越すほどの効果が確認されている。

言語習得後失聴者(術前聴力レベルは全例100dB以上)を対象とした人工内耳の聴覚のみによる評価では、正答率の平均値は、単語78%であり、従来の方式よりも大幅な改善が認められた。また、これらの成績は同一検査で評価された、聴力レベル70〜75dBの補聴器装用者の聴取能に匹敵した。

ただし適応決定にあたっては、手術による副損傷や機器の故障の可能性、モノポラール電気メスやMRI検査が禁忌となる、などのデメリットについても十分な説明と同意が必要である。

環境音の弁別は、ことばよりももっと容易であることがわかる。しかし音楽についてはまだ不十分である。

適応者数の予測

厚生省によって平成8年に行われた調査によれば、6級以上の聴覚・言語障害者の総数は30万人であった。このうち3級以上の障害者は15万2千人で、これは人口の0.1%に相当した。つまり千人に1人は人工内耳の適応となるほどの難聴を持っているわけである。

人工内耳の未来
  • 仮想120チャンネル化による音質の向上で音楽がきれいに聞こえるようになるでしょう。
  • ハイブリッド型人工内耳で補聴器と人工内耳が同じ耳で使えるようになるでしょう。これによって完全に聞こえを失っていない方も人工内耳の適応となるでしょう。
  • 完全埋め込み型の見えない人工内耳(すでにオーストラリアでは治験が始まっています)